「それに、今じゃいい高校に入学させてもらえたし、いいお友達にも恵まれましたし。わたしは幸せ者です」

 それもこれも、全て〝あしながおじさん〟のおかげだ。愛美は彼に、どの瞬間も感謝の念を抱いている。

(あと、この夏、ステキな一ヶ月間を過ごせるのも……ね)

 ――愛美の期待とほんの少しの不安を乗せた白いライトバンは、ガタガタの田舎道を車体を揺らしながら走っていった。

「さ、着いたよ」

 千藤夫妻が農園をやっているのは、長野県の北部にある高原。近くには温泉もあり、少し北に行けばもう新潟県というところである。

「わあ……! ステキなお家ですね!」

 愛美は千藤家の外観に、歓声を上げた。
 そこはいわゆる〝昔ながらの農家〟という感じの日本家屋(かおく)ではなく、洋風の(つく)りの二階建てで、壁の色はペパーミントグリーンだ。

「ここは元々、〈辺唐院グループ〉の持ち物で、純也()っちゃんの別荘だったのよ」

「えっ、純也さんの!?」

 多恵さんの口から思いがけない名前が飛び出し、愛美は目を丸くした。

「ええ、そうだけど。愛美ちゃん、純也坊っちゃんのことご存じなの?」

「はい。五月に一度、学校を訪ねて来られたことがあって。わたしがその時、姪の珠莉ちゃんに代わって校内を案内して差し上げたんです」

 愛美は純也と知り合った経緯を多恵に話した。――ただし、実はその時から彼に恋をしている、という事実は伏せて。

「そうだったの。――私は昔、あの家で家政婦をやっててね。そのご縁で、私が家政婦を引退した時に坊っちゃんが私にこの家と土地を寄贈(きぞう)して下さって。それでウチの人とここで農園を始めたのよ」

(ここがまさか、純也さんの持ち物だったなんて。……あれ? じゃあ、おじさまはどうやってここのこと知ったんだろう?)