「ほえー……。大したモンだわこりゃ。っていうか、『あしながおじさん』率高くない?」
さやかが目ざとく指摘する。
本棚にはもちろん、他の本もたくさん並んでいるのだけれど。『あしながおじさん』のタイトルだけで十数冊もあるのだ。これはこの本棚の蔵書の中でもっとも多い。
「うん。小さい頃からこの本好きなんだよねー。よく見て、さやかちゃん。翻訳してる人、全部違うでしょ? 一冊一冊、文体が違うの。読み比べするのも面白いんだ」
愛美はその中でも一番のお気に入りを一冊手に取った。
「コレね、施設にいた頃からずっと読んでたの。もう表紙とかボロボロなんだけど。で、コレを読みながら、わたしの境遇をこの本のジュディと重ねてたんだよね」
でも、と愛美は続ける。
「現代の日本に生きてるわたしの方が、ジュディより色々と恵まれてるよね……」
この令和の日本では、憲法であらゆる権利が認められているし、「施設出身だから」といって社会的に差別されることもない。
一九一〇年代の、差別や偏見がまかり通っていたアメリカに生きていたジュディとは、似て非なる境遇だ。
「……なんか、よく分かんないけど。〝あしながおじさん〟に援助してもらえなかったら進学できなかったっていうのは、ジュディもアンタもおんなじじゃん? だから、アンタが『恵まれてる』って思えるのはおじさまのおかげなんじゃないの?」
「…………あ、そっか。そうだよね」
自分とジュディの境遇を重ねるなんておこがましい、と思っていた愛美は、さやかの言葉にハッとさせられた。