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 ――五限目と六限目の間の休憩時間に、愛美はレポート用紙に書いたお礼状を封筒に入れておいた。

「――で? あの手紙、一体なんて書いてあったのよ?」

 六限目までの授業が全て終わり、寮に帰る途中でさやかが愛美に訊いた。もちろん珠莉も一緒である。

「あのね、おじさまの知り合いが信州の高原で農園とかやってるんだって。だから、夏休みはそこで過ごしたらどうか、って。もう根回しは済んでるらしいよ」

「へえ、そうなんだ。よかったね、やっと行くとこができて」

「うん!」

「信州っていうと……、長野(ながの)新潟(にいがた)あたりかしら?」

「うん、長野らしいけど。……珠莉ちゃん、もしかしてその場所に心当たりあるの?」

 突然口をはさんできた珠莉に、愛美は何か引っかかった。
 彼女はずっと、愛美には興味がないと思っていたけれど。愛美が純也と関わってから、急に愛美にご執心(しゅうしん)らしい。

「……いいえ、何でもないわ」

 けれど、何か言いかけた珠莉はすぐに口をつぐんでしまった。

「ところでさ、その手紙そのまま出すの? 清書しなくていいワケ?」

 さやかは愛美と教室の席が近いので、愛美が英語の授業中にせっせとこの手紙をかいていたのを知っているのだ。

「うん、いいの。だって、書き直したらせっかくの臨場感が台無しになっちゃうもん」

 授業中に書いたことが分からなければ、「早くお礼が言いたかった」という愛美の気持ちも伝わらない。

「手紙に臨場感なんて必要なのかしらね? さやかさん」

「さあ? あたしにも分かんない」

 二人して首を傾げるさやかと珠莉だけれど、愛美にとって〝あしながおじさん〟への手紙はSNSの書き込みのようなものなのだ。