『そうなの? だったら愛美ちゃん、ここに帰ってこない?』

「……えっ?」

『夏休みの間の里帰りってことで、ね? 前みたいに小さい子たちの面倒見たり、施設のお仕事を手伝ってくれたらいいわ。大した金額じゃないけど、アルバイト代は出すから』

「……そんな」

 愛美は困ってしまった。せっかくの厚意なので、甘えたい気持ちはある。
 けれど、あの施設の経営が苦しいことは、愛美がよく知っている。バイト代を出す余裕なんてないはずなのに……。そんな口実がないと帰れない場所なんだと思うと、何だかやるせなかった。

「園長先生、ホントはそんな余裕ないんですよね? だったら、見栄はらないで下さい。わたしはもう、そこに帰る資格なんてないんです。せっかくのご厚意ですけど、ゴメンなさい」

『…………そうよね。私の方こそ、あなたの気持ちも考えないで差し出がましいことしてゴメンなさいね。夏休みの過ごし方については、田中さんにご相談してお任せした方がいいわね。おせっかいを許してね』

 少し言い方がキツすぎたかな、と愛美は反省したけれど。逆に園長に謝られ、心がチクリと痛んだ。

「そんな、おせっかいだなんて! 電話下さって嬉しかったです。ありがとうございました。それじゃ、失礼します」

 電話を切った愛美は、ベッドにバタンとひっくり返った。園長の厚意を断った今、夏休みの予定を相談する相手はもう一人しかいない。

「こういう時こそ、あしながおじさんに相談しよう!」

 愛美は着替えを済ませると、急いで机に向かった。