「そうなんですか……」

 怒られる、と身構えていた愛美は、逆に褒められて嬉しいやら照れ臭いやら。

(でもおじさま、怒ってないんだ。よかった)

 思えば、彼女が一方的につけたニックネーム。返事がもらえないから、相手の反応すら分からなかった。怒らせていたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしていたのだけれど。

『どう? 学校は楽しい?』

「はい。すごく楽しいです。お友達もできましたし、寮生活も初めての経験が多くてワクワクしっぱなしで。――みんなは元気ですか?」

 まだ〈わかば園〉を巣立って二ヶ月ほどしか経っていないのに、愛美は兄弟同然に育ってきた他の子供たちのその後が気になっていた。

『ええ、みんな元気にしてますよ。あなたがいなくなって、最初のころは(さみ)しがる子もいたけど、今はもう落ち着いてきてるわ。涼介くんがすっかりお兄ちゃんになって』

「そうですか。よかった」

 あの施設を出る日、愛美は涼介に後を託したのだ。しっかり自分の務めを引き継いでくれているようで、ホッとした。

『――ところで愛美ちゃん。もうすぐ夏休みでしょう? 予定はもう決まってるの?』

「……あ、いえ。まだなんです。そろそろ田中さんに相談した方がいいかな、って思ってるんですけど」

 家族がいる子なら、実家に帰るとかどこかに旅行に行くとか、すんなり休みの予定も決められるのだけれど。家族のいない愛美は、どう決めていいのか分からない。
 かといって、名目上の保護者でしかない〝あしながおじさん〟に相談するしかないのも、何だかなあと思う。――とはいえ、他に相談する相手がいないのも事実なのだけれど。