ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ ……

「……あれ?」

 愛美の制服のポケットで、スマホが震えている。この長い震え方からして電話みたいだ。

「――あ、ゴメン! 電話かかってきてるみたいだから、わたしは部屋に戻るね! じゃあまた後で、ゴハンの時にねっ」

「あー、うん……」

(電話? 誰からだろう?)

 愛美は首を傾げた。〝あしながおじさん〟からこのスマホを持たされてもう二ヶ月になるけれど、電話をかけてくるような相手に心当たりがない。
 おそるおそるディスプレイを確かめると――。

(コレ……、山梨の番号だ。もしかして……)

 そこに表示されているのは、(ゼロ)()で始まる電話番号。山梨の番号で、愛美に思い当たるのは一件しかない。

「……もしもし? 相川ですけど」

『愛美ちゃん? 私、〈わかば園〉の聡美です。分かる?』

 通話ボタンをタップして応答すると、聞こえてきたのは懐かしい、穏やかな年配女性の声。

「園長先生!? お久しぶりです! でも、どうしてこの番号ご存じなんですか?」

『田中さんがね、あなたにスマホをプレゼントしたっておっしゃってたから、一度かけてみようかしらと思ってね。……あら、〝あしながおじさん〟だったかしら?』

 フフフッ、と茶目っ気たっぷりに笑う園長に、愛美はバツが悪くなった。

「ゴメンなさい、園長先生! わたし、勝手にあの人にあだ名つけちゃったんです。まさか園長先生までご存じだったなんて……」

『あらあら、謝ることなんてないのよ。あの方ね、「面白いニックネームをつけてもらったんですよ」って嬉しそうにおっしゃってたんだから。「僕より愛美ちゃんの方がネーミングセンスいいですね」って』