「そういえば、もうじき夏休みですけど。お二人はご予定決まってらっしゃるの?」
珠莉がやたら得意げな顔で、二人に訊いてきた。これはもう、自慢話をする気満々だと、愛美にもさすがに分かる。
「そういうアンタはとっくに決まってそうだね? 珠莉」
「ええ。私はヴェネツィーアに行くんですのよー。ああ、今から楽しみだわー♪」
「……ふーん。よかったね」
イタリアの都市ヴェネチアをイヤミったらしくイタリア語風に発音し、歌うように答えた珠莉を、さやかは鼻であしらった。「コレだからセレブは」とかなんとかブツブツ言っている。
「さやかちゃんは?」
「ああ、ウチは長瀞でキャンプ。お父さんがキャンプ場の会員でね、毎年行ってんだ。あとは実家でまったり、かな」
「へえ、キャンプか。いいなあ……」
愛美も実は、施設にいた頃に一度だけ、施設のイベントでキャンプをしたことがあるのだ。みんなで力を合わせて火をおこしたり、ゴハンを炊いたり、カレーを作ったり。すごく楽しかったことを覚えている。
「愛美は? まだおじさまに相談してないの?」
「うん……。もうそろそろ相談してみようかなーとは思ってるけど」
実は、つい数日前に〝あしながおじさん〟に手紙を出したばかり。その時には、夏休みをどうするか相談するのを忘れていた。
(おじさまもお忙しいだろうし、あんまりしょっちゅう手紙出されても困っちゃうよね……)
「最悪、寮に居残るのもアリかなーとも思ってたり」
「ダメダメ! せっかくの夏休みなんだよ!? 高校生活で最初のバケーションなんだからさあ、思いっきり楽しまないと!」
「う、うん……。そうだね」
ついついさやかのペースに乗せられ、頷いてしまう愛美だった。
さやかは周りを自分のペースに巻き込みがちだけれど、愛美はそれが楽しくて仕方がないのだ。