高級ブランドスーツに身を包み、後部座席にゆったりもたれてお抱え運転手に「家までお願い」とか言っている――。そう、自分はお金持ちの令嬢だ。
 そして高級リムジンは立派なゲートを抜け、大豪邸の敷地内へ入っていく――。

 けれど。愛美の空想はそこまでで止まってしまった。

「……あれ? 大豪邸の中ってどんな感じなんだろう?」

 一度も入ったことのない、大きなお屋敷の間取りがどんな風になっているのか、インテリアはどんなものなのか? 全くもって想像がつかない。
 友達の家に遊びに行ったことはあるけれど、そこだってごく普通の民家。〝豪邸〟と呼べるほど立派な家ではないのだ。

「はあ…………」

 なんだか(むな)しくなった愛美は、空想を打ち切った。ちょうど、おやつタイムが終わったおチビちゃんたちが戻ってきたからでもある。

 ――これが愛美の現実。高級リムジンで送迎してもらえるようなお嬢様にはなれないし、そんな人たちと自分は住む世界が違うんだ。彼女はそう思っていた。

 ――この日の夜、聡美園長先生から思いがけない話を聞かされるまでは……。