ところが、彼は珠莉ちゃんに会う前に急にお帰りになることになっちゃって。わたしに「またね」っておっしゃって行かれました。
 多分、本当は珠莉ちゃんに会いたくなかったんじゃないかとわたしは思ってるんですけど。どうやら彼は、珠莉ちゃんのことが苦手らしいので。
 珠莉ちゃんは叔父さまに会えなかったから、わたしが叔父さまを横取りしたってめちゃくちゃ怒ってました。
 あの叔父さまはものすごくイケメンで、気前がいいから女性にすごく人気があるんだそうです。そして、彼女はどうも、叔父さまにお小遣いをねだろうと思ってたみたいです。
 それ以来、珠莉ちゃんはわたしと口もきいてくれなかったんですけど。今日純也さんから「金曜日のお礼に」って高級なチョコレートが三箱届いて(さやかちゃんの分もありました)、すっかり彼女の機嫌は直ったみたいです。
 わたしはというと、あの日からずっと純也さんのことが頭から離れなくて。夜眠れば夢に出てくるし、授業中もついついあの人の顔が浮かんできて、得意なはずの国語の授業中に先生の質問に答えられなくて注意されました。
 こんなこと、生まれて初めての経験で。「これはなんていう感情なの?」って二人に訊いたら、さやかちゃんが教えてくれました。「それは〝恋〟だよ」って。
 恋をするって、こういうことだったんですね。本では読んだことがあったけど、実際に経験するのはまた別の感覚です。ドキドキしてワクワクして、フワフワした気持ちです。