〈辺唐院グループ〉の一員ということは、当然そうなるだろう。――もっとも、ここにいる彼は一見そう見えないのだけれど。

「いやあ、僕はそんなに大したもんじゃないよ。グループの一社の経営を任されてるだけでね。でも、僕の好きなようにはさせてもらってるよ。身内はうるさいけどね」

 彼は淡々(たんたん)と語っているけれど、それって他の親族たちから浮いているということじゃないだろうか? 疎外(そがい)感を感じたりしないのだろうか? ――愛美はそう考えた。

(ある意味、この人もわたしと同じなのかも)

「そもそも、ウチの親族は僕のことをあんまりよく思ってないみたいなんだ。でも愛美ちゃんは、亡くなったご両親からちゃんと愛されてたみたいだね」

「……えっ? どうして分かるんですか?」

 思いがけないことを言われ、愛美は目を瞠った。
 彼に自分の亡き両親と面識があったとは、とても思えないのだけれど。

「珠莉から教えてもらったんだけど、愛美ちゃんの名前って〝愛されて美しい〟って書くんだよね? そんなキレイな名前、君のことを大事に思ってなければ付けられないよ、きっと」

「……はあ」

「ほら、『名前は両親が我が子に与える最初の愛情だ』っていうだろう? 〝愛美〟って名前、すごくステキだね。僕は好きだな」

「あ…………、ありがとうございます」

(なんか……すごく嬉しい。お父さんとお母さんのこと、こんなに褒めてもらえて)

 それに……、愛美は純也に初めて会った時から、心が妙にザワザワするのを感じていた。
 まだ名前も分からないこの感情は、一体何なんだろう――? と。