「……ああ、そうだったね。でも、それは建前(たてまえ)で、本当は僕、あの子が苦手でね」

「えっ、そうなんですか? 身内なのに?」

 純也の思わぬ言葉に、愛美は目を丸くした。仮にも姪の友人に対して、何というカミングアウトだろう。

「うん。珠莉は小さい頃からワガママで、僕の顔を見るなり小遣いの催促をしてきて。その頃から『可愛くない子だな』と思ってたんだ」

(……やりそう。あの珠莉ちゃんなら)

 入寮の日の一件を目の当たりにしていた愛美である。自分の部屋が一人部屋ではないことが気に入らないと、学校職員にかみついていた彼女なら、幼い頃からワガママだったと聞いても納得できる。

 ……けれど。

「そんなこと、わたしに言っちゃっていいんですか?」

 愛美の口から、珠莉の耳に入るかもしれないのに。

「ハハハッ! マズいかな、やっぱり。珠莉にはこのこと内緒で頼むよ」

「はい、分かってます」

 純也は話していると楽しい人物のようだ。愛美も自然と笑顔になった。
 そして何故か、愛美は彼に対して妙な懐かしさのような感情をおぼえた。

「――でも、いいなあ。その年でもうやりたいことがあるなんて。正直羨ましいよ。僕は経営者の一族に生まれたせいで、夢なんて持たせてもらえなかったからね」

 注文したものがテーブルに届き、紅茶をストレートで飲みながら、純也がしみじみと言った。

「えっ? じゃあ純也さんも社長さんなんですか? そんなにお若いのにスゴいですね」