「そっか……。何だか悪いこと聞いちゃったみたいだね。申し訳ない」

「いえ! そんなことないです。わたしが育った施設はいいところでしたから」

 純也に謝られ、その口調から同情が感じられなかったので、愛美は笑顔でそうフォローした。
 そしてこう続ける。

「その施設を援助して下さってる理事のお一人が、わたしが中学の文芸部で書いた小説を気に入って下さって。その方のおかげでこの学校に入れたんです、わたし」

「小説? 書くの好きなの?」

「はい。幼い頃から、小説家になるのがわたしの夢なんです。わたしが書いた小説を一人でも多くの人に読んでもらって、『面白い』って感じてもらえたら、と思って。――あ、すみません! つまらないですよね、こんな話」

 つい熱く自分の夢を語ってしまった愛美は、ハッと我に返った。

(からかわれるかな、コレは……)

 もしくは(あき)れられるだろうか? 「そんな夢みたいなこと言ってないで、現実を見た方がいい」とか。

 ――ところが。彼の反応は愛美のどちらの予想とも違っていた。

「いや、ステキな夢だね。僕も読書が好きだから、君の夢が叶う日が楽しみだよ」

(え……?)

 いかにも現実的そうな珠莉の叔父なのに、純也も自分の夢を応援してくれるらしい。――愛美の胸が温かくなった。

「はい! ありがとうございます!」

(やっぱりこの人、珠莉ちゃんと似てないな)

「純也さん、次はどこがご覧になりたいですか?」

 愛美は彼と一緒にいられるこの時間を、もっと楽しもうと思った。