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 愛美は一旦部屋に戻ると、私服――ソフトデニムのワンピース――に着替え、寮の管理室の隣にある応接室のドアをノックした。

「失礼しまーす……」

 中に入ると、そこにいたのは寮監の晴美さんと、スラリとした長身らしい三十歳前後の男性だった。
 整った顔立ちをしていて、落ち着いた雰囲気の持ち主だ。高級そうなベージュのスーツをキッチリと着こなしている。彼が珠莉の叔父という人だろうと愛美には分かった。

「あら、相川さん。いらっしゃい」

「晴美さん、こんにちは。――あの、珠莉ちゃんの叔父さま……ですよね? わたし、珠莉ちゃんの友人で相川愛美といいます」

「ああ、君が珠莉の代わりか。(ぼく)は辺唐院純也(じゅんや)です。珠莉の父親の末の弟で、珠莉とは十三歳しか歳が離れてないんだ」

 彼の爽やかな笑顔からは、とてもイヤなセレブ感は感じ取れない。

(なんかステキな人だなあ……。珠莉ちゃんとは似てないかも)

「愛美ちゃん……だったね? 早速だけど、学校内の案内をお願いできるかな?」

「相川さん、お願いね」

 晴美さんにまで頭を下げられ、愛美は快く頷いた。

「はいっ! じゃあ行きましょう、純也さん」

(あ……、しまった! いきなりコレは()れ馴れしすぎたかな) 

 愛美は初対面の彼を〝純也さん〟と呼んでしまい、ちょっと反省してしまった。今までこの年代の男性とはほとんど接点がなかったため、距離感がうまくつかめないのだ。

 ……けれど。

「ありがとう、愛美ちゃん。行こうか」

 純也に不快そうな様子はなく、彼の笑顔が崩れることもなかったので、愛美はホッとした。