――ところが、一つ問題があった。
「スマホって、どうやって使うんだろう?」
スマホどころか携帯電話自体を持つのが初めての愛美には、使い方が分からないのだ。
こういう時は説明書、と箱の底の方まで見てみても、入っているのは薄っぺらいスターターガイドだけ。読んでも内容がチンプンカンプンだ。
(使い方くらい、手紙に書いといてくれたらいいのに)
八つ当たり気味に、愛美は思う。けれど、それもあえて書かなかったのだろうか? 愛美がこういう時、どうするのかを試すために。
「う~ん……、どうしよう? ――あ、こういう時は……」
愛美はスマホを持ったまま部屋を飛び出し、隣りの部屋――さやかと珠莉の部屋である――のドアをノックした。
「さやかちゃん、助けてー! 愛美だけど!」
「どしたの?」
出てきたさやかは迷惑そうな顔ひとつせず、愛美に訊ねる。
「あのね、保護者の理事さんがスマホをプレゼントしてくれたんだけど。使い方が分かんなくて……。さやかちゃん、お願い! 教えてくれない?」
「スマホの使い方? もしかして初めてなの?」
「うん、そうなの。そもそもケータイ持つこと自体、初めてなんだ」
それは施設にいたから、ではない。愛美には親も親戚もいないから。
同じ施設にいても、親や親せきがいる子はケータイを持たせてもらっていた。愛美はそれを「羨ましい」と思ったことがなかったけれど……。