「そうなんだ……。よかったね」

「うん。名前は教えてもらってないんだけどね。その代わり、わたしはその人の秘書っていう人に毎月手紙を出すことになったの」

「へえ……、そうなんだ。――あ、着いた。じゃあまた、晩ごはんの時にねー」

「はーい」

 部屋に着くまで、珠莉はほとんど愛美に話しかけてこなかった。
 愛美にそれほど興味がないのか、それとも一人部屋を愛美に取られたことをまだ根に持っているのか……。

(まあ、いいんだけど。わたしは気にしないし)

 珠莉に興味を持たれなくたって、さやかとは仲良くなれそうだからいいか。愛美はそう自分に言い聞かせた。

 一歩部屋に足を踏み入れると、愛美は室内をしげしげと見回す。
 ベッドや勉強机・椅子、クローゼットなどの大きな家具は一通り揃っている。こまごましたインテリアはまた買い揃えるとしても、とりあえずは生活していけそうだ。

 クローゼットの扉を開けると、白い(えり)とリボンがついたダークグレーのセーラー服とスカートがかけられている。これがこの学校の制服である。  

――それにしても、と愛美は思う。

「やっぱり似てるなあ、『あしながおじさん』のお話と」 

 これだけ同じようなことが起きれば、もう狙ってやっているとしか思えない。――さやかや珠莉と部屋が隣り同士になったのは偶然だとしても。