「――ねえ、愛美さんはどちらのご出身ですの? ご両親は何をなさってる方?」

「…………え?」

(ああ……、一番訊かれたくないことなのに)

 珠莉がごく当たり前のように質問してきて、愛美の表情は曇った。
 その様子に気づいたさやかが、助け船を出してくれる。

「ちょっと珠莉! ちょっとは空気読みなよ! 人には答えにくいことだってあるんだから!」

(さやかちゃん……、わたしに気を遣ってくれてる)

 愛美はそれを嬉しく思う反面、彼女に対して申し訳ない気持ちになった。

「……さやかちゃん、いいよ。わたしは山梨の出身。両親は小さいころに亡くなってて、中学卒業まで施設にいたの」

「施設? あー……、そりゃあ大変だったねえ。じゃあ、学費とかは誰が出してくれてんの? 施設?」

 愛美を気遣うように、さやかが言う。けれど、それは同情的な言い方ではなかった。
 施設で育ったことを卑下(ひげ)していない愛美は、「かわいそうだ」と同情されるのが嫌いだ。
 
〈わかば園〉には、両親が健在でも様々な事情で両親と一緒に暮らせない子も何人かいた。涼介もそのうちの一人だ。
 彼は実の両親からネグレクト、つまり育児放棄を受けていて、児童相談所に保護されたのちに〈わかば園〉で暮らすことになったのだ。

「ううん、施設にはそんな余裕ないって。でもね、施設の理事さんの一人が援助を申し出てくれたんだって。その人がいなかったら、わたし高校に入れないところだったの」