「あのね、わたしいよいよ、単行本を出してもらえることになったの!」

「えっ、ウソ? よかったじゃん、愛美!」

「うんっ! 今日ね、担当の編集者さんに『大事な話がある』って呼び出されて。でね、行ってみたら『今度、長編小説を書いてみませんか?』って」

「あらあら。長編なんてスゴいじゃありませんの! では、それが本になって出版されるということですのね?」

 このビッグニュースには、さやかはもちろんのこと、珠莉も喜んでくれた。

「ただ、いつ刊行されるかはまだ分かんないの。とりあえず一作書いてみて、その出来ばえで考える、みたいな感じで。でも、その間には並行して短編のお仕事も続けさせてもらえるみたい」

「じゃあ、長編より短編集が先に出る可能性もあるワケだね」

 愛美もそこまでは考えていなかったので、さやかの指摘は目からウロコだった。

「……あ、そうなるかも。でも、どっちにしても嬉しいな。わたしの書いた小説が本になるなんて!」

「あたしも嬉しい! もう書く題材は決まってんの?」

「うん。純也さんをモデルにして、現代版の『華麗なる一族』みたいなのを書けたらいいなーって思ってるんだ。だからね、冬休みの間に珠莉ちゃんのおウチとか、セレブの世界を取材するつもりなの。珠莉ちゃんも協力してね」

「……ええ、いいけど。私の家なんて取材しても、あまり参考にはならないんじゃないかしら。私はあまりお勧めできなくてよ」

 かなり乗り気な愛美とは対照的に、珠莉はこの案に消極的だった。

「純也叔父さまだって、どう思われるか分かりませんわ」

「……もしかして、珠莉ちゃんも自分のお家のこと好きじゃないの?」

 以前、純也さんは親戚と反りが合わなくて家に寄り付かないと言っていたけれど。珠莉も彼と同じなんだろうか?

「ええ、あんな家、好きじゃありませんわ。私は生れてくる家を間違えたんですの」

「…………」

 悲しげにそう吐き捨てる珠莉に、愛美は胸が締め付けられる思いがした。

 愛美自身は施設出身だから、家族というものがあまりよく分からない。でも、少なくともさやかの一家はみんな仲がよくて(よすぎる、といってもいいかもしれない)、すごく温かい家庭だなぁと思っている。
 自分の生まれ育った家や家族のことを「好きじゃない」という人がいるなんて、純也さんに出会うまでは思いもしなかったのだ。