愛美は初めて書く長編小説の題材を(ひらめ)いた。

「現代版『華麗なる一族』なんてどうだろう? なんか面白いかも♪」

 大都会の社交界で繰り広げられる、セレブ一族の物語。愛美とは住む世界が違う人々の暮らしぶりや人間関係を、小説にしようと思い立ったのだ。

「珠莉ちゃんのお家にいる間に、色々お話聞いて取材しよう。純也さんにもお話聞けたらいいな」

 主人公はセレブ一家に生まれ育ったけれど、その家族や親せきと折り合いのつかない青年。自立心と正義感が強い彼は、自分の手で自分の人生を切り開いていく――。

「……うん、いいかも」

 大まかなストーリーはできつつある。あとは取材を重ねて、それにしっかり肉付けしてキチンとプロットを作れば原稿は書けるはず。

(わたしの書いた本が、ついに本屋さんに……)

 その光景を想像するだけでワクワクする。しかもそれはベストセラーになって、次々と重版がかかるのだ。
 そして、ついには有名な文学賞の候補になったりなんかして……。

(……おっと! 妄想が膨らみすぎた。まずは書かなきゃ始まんないよね)

 まだ書いてもいない段階でここまで想像しても、〝捕らぬ狸の皮算用〟でしかない。

「よしっ、頑張るぞー! 愛美、ファイト! おー!」

 自分に発破(はっぱ)をかけ、愛美は寮へと帰っていった。

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「――ただいま!」

 部屋に帰ると、今日はさやかも珠莉も部屋にいた。珍しく、二人で仲よくTVドラマの再放送を観ている。

「あー、愛美。お帰り。このドラマ面白いよ。愛美も観る?」

「こういう低俗(ていぞく)なドラマは私の好みじゃないんですけど、これには私もハマってしまいましたのよ」

 この二人の趣味が合うなんて、珍しいこともあるものだ。入学当時は性格も考え方も何もかも正反対の二人だと思っていたのに。
 人というのは、一年半以上も付き合っていると変わるものなんだと愛美は思った。

「……うん。あーでも、二人に聞いてほしい話があって」

「うん、なになに?」

 さやかは愛美の話に耳を傾けることにしたようで、リモコンでTVの電源を落とした。