「……いいえ。別に、気に入らないわけじゃないけど。もういいですわ。私は二人部屋で」
プライドが高そうな珠莉は、こんな下らない理由で目立ってしまったことを恥じているらしく、あっさりと折れた。
「――で、あなたが一人部屋を使うことになった相川愛美さん? お部屋はあなたにお譲りするわ」
「え……? う、うん。ありがとう」
これって喜ぶべきところなんだろうか? 愛美は素直に喜べない。というか、上から目線で言われたことが癪に障って仕方がない。
「――ま、これで部屋問題は解決したワケだし。早く自分の荷物、部屋まで運ぼうよ」
さやかが愛美と珠莉の肩を叩いて促す。
……のはいいとして、愛美は荷物が少ないからいいのだけれど。二人の荷物はかなり多い。どうやって運ぶつもりなんだろう? 愛美は首を傾げた。
「牧村さん、辺唐院さん。カートがありますから、使って下さい。後で回収に回りますから」
「「ありがとうございます」」
二人がカートに荷物を乗せてから、愛美も合流して三人で二階の部屋まで移動した。
幸い、この建物にはエレベーターがついているので、荷物を運ぶのはそれほど大変ではなかった。
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「じゃ、改めて自己紹介するね。あたしは牧村さやか。出身は埼玉県で、お父さんは作業服の会社の社長だよ」