「あ……、愛美です。久しぶり。――あの、純也さんはこの冬、どうするのかなぁと思って」

『う~ん、どうしようかな。実はまだ決めてないんだ。まあ、仕事はそんなに忙しくないし。そもそも年末は接待ばっかりでね、僕もウンザリしてる』

「純也さんって、お酒飲めないんだっけ?」

『そうそう! でも、接待だから飲まないわけにもいかなくて。少しだけね』

「大人って大変なんだね……。あのね、わたし、珠莉ちゃんに招待されたの。『冬休みは我が家にいらっしゃいよ』って」

 ……さて、エサは撒いた(というのも失礼な言い方だと愛美は思ったけれど)。純也さんはどうするだろうか?

『えっ、珠莉が……』

「うん、そうなの。わたし、お金持ちのお屋敷に招待されるの初めてで、ものすごく緊張しちゃいそう。でも、純也さんも一緒にいてくれたら大丈夫だと思うの。だから純也さんも、たまにはご実家に帰ってこられない?」

 愛美自身、言っているうちに鳥肌が立っていた。こんな()び媚びのセリフを自分が言っているのが自分でも気持ち悪くて。

(こんなの、わたしのキャラじゃないよ……)

「ご家族とうまくいってないことは知ってます。でも、わたしのためだと思って、お願い聞いてくれないかな?」

 しばらく電話口で沈黙が流れた。そして、彼の長~~~~いため息が聞こえたかと思うと、次の瞬間。

『…………分かったよ。僕も今年は実家に帰る。他でもない愛美ちゃんの頼みだからね』

「純也さん……! ありがとう!」

『ただし、親族ともうまくやっていけるかどうかは分からない。居心地が悪くなったら、すぐに出ていくかもしれないよ』

「そんな……」

『まあ、愛美ちゃんを孤立させるようなことだけはしないから。何かあったら僕が盾になってあげるから、安心してよ』

「……うん。じゃあ、失礼します」

 電話を切った愛美には、ちょっと不安が残った。

「大丈夫かな……」