「……うん、そうだね。珠莉ちゃん、ありがと」

 愛美としては、苦しんでいる純也さんをこれ以上追い詰めるようなことはしたくなかったので、珠莉からそう言ってもらえてホッとした。

「叔父さまは、本当に分かってらっしゃらないのかしら? 愛美さんに正体を見破られていること」

「多分……ね。気づかないフリができるほど器用な人じゃないもん」

 姪の珠莉よりも、恋人である愛美の方が彼の性格を熟知しているというのもおかしな話だけれど――。

「――それにしても、さやかちゃんは大変だね。二学期始まって早々、部活なんて。お昼ゴハンに間に合うように帰ってくるとは言ってたけど」

 今この場に、さやかはいない。彼女が所属する陸上部はインターハイの反省会をやっているのだそう。
 ミーティングだけなので練習があるわけではないけれど、二学期初日に集まらなければならないのは確かに大変である。

「その点、私たち文化部はいいですわよね。基本的に自由参加ですもの」

「うん」

 文芸部も茶道部も一応、今日も活動はしているのだけれど。参加しているのはごく一部の部員だけだろう。

「……そういえば珠莉ちゃん。さやかちゃんにも話したの? 純也さんが、わたしの保護者の〝あしながおじさん〟だってこと」

「ええ、早い段階でお話ししてあるわ。でも、愛美さんご自身が気づかれるまでヒミツにしていましょうね、ということになったのよ」

「そうだったんだ……」

 愛美は何だか、自分一人だけがのけ者にされたような気持ちになったけれど。それはきっと、親友二人の愛美への思いやり。彼女と純也さんの恋をそっと見守っていようという気遣いだったんだろう。

「――あ、もうすぐお昼のチャイム鳴るね。さやかちゃん、そろそろ帰ってくるかな」

 キーンコーンカーンコーン ……

「ただいま! お腹すいたぁ! 二人とも、食堂行こう」

 十二時のチャイムが鳴るのと、さやかが空腹を訴えながら部屋に飛び込んでくるのはほぼ同時だった――。