(――純也さん、心の声がダダ漏れ……)

 この返信を見た時、彼が〝あしながおじさん〟の正体だと確信している愛美は苦笑いしたものだ。
 やっぱり、自分が愛美のためにできることが減ってしまうのは、彼としても淋しいらしい。
 
「――そういえば、珠莉ちゃんは夏休み、どうだったの? 治樹さんには会えた?」

 寮に帰る道すがら、愛美は珠莉に訊ねてみた。

「…………ええ。早めにグアムから帰国できたから、丸ノ内(まるのうち)を一人で歩いていたら、スーツ姿の治樹さんにお会いできましたの」

「スーツ姿? ああ、就活か」

 さやかは自分の兄の年齢を思い出して、納得した。治樹は大学四年生。ちょうど就活に終われている時期である。

「にしても、お兄ちゃんがスーツ姿……。想像つかないわ」

「……それはともかく! 私が話しかけたら、治樹さんも私のことを覚えていて下さって。『連絡先を交換して下さい』って言ったら、OKして下さったんですの!」

 珠莉はさやかに咳払いした後、続きを一気にまくし立てた。よっぽど嬉しかったらしい。

「へぇ、意外だったなぁ。お兄ちゃんが珠莉と付き合う気になったなんて。もう愛美のことはふっ切れたってことかな?」

「うん、そうなんじゃないかな。治樹さんもやっと前に進む気になったんだよ、きっと」

 愛美には純也さんという恋人ができた。珠莉と治樹さんにも、やっと春が訪れたということか。――あと残すはさやか一人だけだけれど……。

「――あ、ちょっと待ってて。郵便受け見てくるから」

 もしかしたら、〝あしながおじさん〟からの返事が来ているかもしれない。そう思って、愛美は自分の郵便受けを開けてみたけれど――。

「来てないか……」

 他に来る郵便物もないので、郵便受けの中は空っぽだった。

(今更反対する理由もないから、返事を下さらないのか。それとも……)

 純也としてちゃんと「返事」を送ったから、〝あしながおじさん〟の返事は必要ないと思って出さないのか……。
 愛美は後者のような気がしてならなかった。