その一方で、辺唐院珠莉と男性職員との口論はまだグダグダと続いていた。

「あの……。よかったら、わたしと部屋代わる?」

 見かねた愛美が、おずおずと珠莉に部屋の交換を申し出たけれど。

「いいよ、愛美。そんな子のワガママに付き合うことないって。――ちょっとアンタ! あたしと同室なのがそんなに気に入らないの!?」

 どうやらさやかは、言いたいことをズバズバ言うタイプの子らしい。

(さやかちゃん……、そんなにはっきり言わなくても)

 愛美は絶句した。これ以上話をこじれさせてどうするのか、と。
 〈わかば園〉にいた頃はケンカらしいケンカもなかったので、愛美は基本的に平和主義者だ。人のケンカやもめ事に首を突っ込むのは苦手である。

 けれど、この場では愛美も当事者なのだ。珠莉の(いか)りの矛先が愛美に向くこともあるかもしれない。そうなった時の対処法を彼女は知らない。

(わ……、なんかすごい人集まってる!)

 愛美が驚いた。気づけば、「周りには大勢の新入生や在校生と思われる女の子たちが(さわ)ぎを聞きつけて、「なんだなんだ」と集まってきていたのだ。

「……同室? じゃあ、あなたが牧村さやかさん?」

「そうだけど。なんか文句ある?」

 仁王立ちで言い返すさやかに、珠莉は毒気を抜かれたらしい。というか、人前で悪目立ちしてしまったことが格好(カッコ)悪かったらしい。