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「――さあ、愛美ちゃん。しっかりつかまってるんだよ」

 朝食後、自前のオフロードバイクのエンジンをかけた純也さんは、スペアのヘルメットをかぶって後ろに乗った愛美にそう言った。

「はい! わぁ、ドキドキするな……」

 好きな人と、バイクや自転車の二人乗りをする。愛美にはずっと憧れのシチュエーションだった。でも機会がないまま十七歳になって、今日初めての二人乗りが実現したのだ。

 愛美はそっと両腕を伸ばして、純也さんの引き締まったお腹に回した。

「コレをできるのが、両想いになってからでよかったです。片想いの時だったら、気まずくてできなかったと思うから」

 彼の背中にもたれかかるのは、恋人である愛美だけの特権だと思う。

「うん。じゃあ行こう!」

 二人の乗ったバイクは勢いよく、そして安全運転で走り出す。
 田舎道なので、途中で何度もガタガタ揺れたけれど、それさえも愛美にはテーマパークのアトラクションのようで楽しかった。

「――郵便料金、いくらかかった?」

 身軽になって郵便局から出てきた愛美に、純也さんは澄まし顔で訊ねた。

「二通で四百六十円とちょっと……。原稿はレターパックで送れたけど、手紙の料金が十円多くかかっちゃって」

「やっぱりなぁ。あれはいつも通りにポストに投函しても、料金不足になっちゃうよな」

「付き合ってくれてありがと。次はどこに行くの?」

「せっかくバイクで来たんだし、ちょっと遠出しようか。途中で昼食を摂って、それから帰るとしよう」

 純也さんは愛美の質問に答えてから、嬉しそうに笑った。

「? どうしたの?」

「そういや愛美ちゃん、僕への敬語はどこに行ったの? さっきから思いっきりため口で喋ってるけど」

「あ……、ゴメンなさい! 付き合ってるからってつい……。敬語に戻した方がいいですよね」

「ううん、いいよ。直さなくていい。これからは対等に話そう」

「うん……!」

 二人の間から敬語がなくなったおかげで、また少し距離が縮まった気がした。
 ――ただ、「純也さんが〝あしながおじさん〟じゃないか」という愛美の疑惑は、まだ晴れないままだけれど……。