〝あしながおじさん〟はきっと、愛美からの手紙を首を長くして待っているだろう。――そう思うと、愛美は申し訳ない気持ちになる。

(でも……、もしも純也さんがおじさまの正体なら、今手紙を出したって意味がないってことになるんだよね……)

 愛美は向かいに座っている純也さんの顔をチラッと窺う。

「あの、そろそろ封筒返してもらっていいですか?」

 愛美は純也さんに向かって手を差し出す。

「ああ、ゴメン! ……ん? ちょっと待って。〝久留島栄吉〟っていうのが田中さんの秘書の名前なのかい?」

 やっと封筒を返してもらえた愛美は、目を丸くした。

「ええ、そうですけど。純也さんスゴい!」

「えっ! スゴいって何が?」

「初めてこの字見て〝くるしま〟ってすんなり読める人、めったにいないの。だいたいの人は〝くりゅうじま〟とか〝きゅうりゅじま〟って読んじゃうんです。だからスゴいな、って」

「ああ、そういうことか。――ほら、田中さんと僕は知り合いだろ? だから、彼の秘書のことも知ってたんだ」

「…………へえ、そうなんですか。今までそんなこと、一度も言ってくれたことないから」

 しれっと弁解する純也さんに、愛美の疑惑はますます膨れ上がっていく。

(多分この人、ウソついてる。わたしが気づいてないと思ってるんだ)

 手紙を出すのをやめようかと一瞬考えたけれど、そんなことをしたら純也さんに不審に思われかねないし、まだそうと確信したわけでもないので、やっぱりこの手紙は出すことにした。

「ね、愛美ちゃん。郵便局に行くなら、僕のバイクの後ろに乗っていかないか? そのついでにツーリングに行こうよ」

「はいっ! ありがとう、純也さん!」

 それに、彼と一緒にいられる時間は心から楽しみたいので。

(今はまだ、このままでいよう。彼が話してくれるまで……)

 彼にも色々と打ち明けられない事情があるんだろう。それなら、もし愛美の疑惑が本当のことだったとしても、可能な限り気づいていないフリをしていようと、愛美は心に決めた。