「愛美ちゃん、あのさ。……僕に幻滅(げんめつ)した? いきなり『キスしたい』なんて言って」

 二人きりになったからなのか、純也さんがばつの悪そうな顔でそう切り出した。実はあのことを、かなり気にしていたらしい。

「そんな……。幻滅なんかしませんよ。そりゃあ……、もっと強引だったら幻滅しちゃってたかもしれないけど」

 愛美は思いっきり否定した。あんなにやさしいキスで幻滅していたら、恋なんてしていられない。

「よかった。純也さんがよく小説に出てくるような俺様な御曹司じゃなくて。わたし、ああいう男の人たちって好きじゃないんです。女の子が何でも自分の思い通りになると思い込んでる。ふざけるなって思います」

 小説の登場人物に腹を立てても……と、純也さんは苦笑い。

「そうだね。僕は強引に恋愛を進めたいタイプじゃないから。っていうか、できないし。愛美ちゃんに嫌われるのが一番イヤだもんな。せっかく僕のことを本気で好きになってくれたんだから、大事にしたいんだ」

「純也さん……、ありがと」

 愛美は心からの笑顔で、彼にお礼を言った。

「――で、今日はどうするんだい? 僕は、一緒にバイクでツーリングしたいなぁって思ってるんだけど」

「あ……、今日は郵便局に行くつもりでいたんだけど」

「郵便局? ……ああ! 小説を応募しに行くんだね」

「はい。あと、おじさまに手紙出すのもね。これだけの厚みになっちゃったモンだから、通常の料金じゃ足りないと思って」

 愛美はもう出かける支度をしてあって、リュックには郵便局に持っていく二通の封筒も入っているのだ。そこから小さいほうの封筒を取り出して、純也さんに見せた。

「これは……、確かに分厚いな。明らかに二センチはありそうだ。これじゃ、郵便局に持って行って、料金を調べてもらうしかないな」

「でしょ? もう一週間くらい書き溜めてあったの。でも、ついつい出しに行きそびれちゃって、気がついたらこんな状態に……」