愛美にとって初めてのキスは、ものの数秒で終わったけれど。彼女はそれだけで何だか幸せな気持ちになった。
 でも心臓はバクバクいっているし、同時にかぁっと顔が火照(ほて)っていくのも感じていた。

「ありがと、愛美ちゃん。じゃあ、おやすみ」

 愛美の柔らかい黒髪を指先で撫でながら、純也さんがそう言うのが彼女には聞こえた。

「……おやすみなさい」

 愛美はしばらく金魚みたいに口をパクパクさせていたけれど、やっとそれだけ言って自分の部屋に戻っていった。

 自分の部屋のベッドでしばらくゴロゴロと寝返りを打っていた愛美だけれど、まだ心臓の鼓動はおさまらず、なかなか寝付けない。

「う~~~~っ、寝られない……」

 これまで、心配ごとが原因で眠れなくなることはあったけれど、幸せすぎて眠れなくなったのは初めてかもしれない。

「コレがよく恋愛小説に出てくる、〝恋(わずら)い〟ってヤツなのかな……」

 愛美は目を閉じて、さっきキスしてくれた純也さんの唇の感触や、髪を撫でてくれた時の彼の指の感覚を思い浮かべていた。
 彼は今、隣りの部屋で何をしているんだろう? 彼もまた、愛美の事を考えてくれているんだろうか――。

「~~~~っ! ダメ、眠れない! ……よしっ! こんな時こそ、おじさまに手紙を書くべきだよね」

 時間は有効に使わなければ! 愛美はベッドからガバッと起き上がり、机に向かってだいぶ中身が薄くなってきたレターパッドを広げた。

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『拝啓、あしながおじさん。

 今日はわたしにとって、忘れられない日になりました。特に夜から色々あって……。さて、何から書こう?
 夕食後、わたしは純也さんと二人で近くの川にホタルを見に行きました。
 純也さんはその時、わたしに言ってくれました。「ホタルっていうのは、亡くなった人の魂が生まれ変わったものなんだ」って。「だから、ここにいるホタルの中に、わたしの亡くなった両親がいるかもしれないね」って。