二人の口論(こうろん)を耳にして、愛美は何だかいたたまれなくなった。
 自分に一人部屋が当たったことで、この子の希望が叶わなくなったんだ。  
 ――もっとも、愛美が望んでそうなったわけではないので、彼女が責任を感じる必要はないのだけれど。

 ――と。

「まぁったく、ヤな感じだよねえあの子」

「……え?」

 嫌悪(けんお)感丸出しで、一人の女の子が愛美に声をかけてきた。とはいっても、その嫌悪感の矛先(ほこさき)は愛美ではなく、男性職員ともめている長身の女の子の方らしい。

 身長は百五十センチしかない愛美より少し高いくらい。肩まで届かないくらいの黒髪は、少しウェーブがかかっている。

「あの子ね、あたしと同室になったんだけど。それが気に入らないらしいんだよね。ったく、あたしだってゴメンだっつうの。あんな高ビーなお嬢がルームメイトなんて」

「あの……?」

 多少口は悪いけれど、突っ張っている風でもない彼女に愛美は完全に気圧(けお)されている。

「――あ、ゴメン! あたし、牧村(まきむら)さやか。よろしくね。アンタは?」

「あ、わたしは相川愛美。よろしく。『さやかちゃん』って呼んでもいい?」

「うん、いいよ☆ じゃああたしは『愛美』って呼ぶね。あたしたち、部屋隣り同士みたいだよ」

「えっ、ホント?」

 早くも友達になれそうな子ができて、愛美はますますこの高校での生活が楽しみになってきた。