「――純也さん、色々とありがとう。なんかわたし、話を聞いてもらったらちょっとモヤモヤが晴れた気がします」

「そっか、よかった。僕なんかで愛美ちゃんの役に立てたみたいで」

「僕〝なんか〟なんて卑下して言わないで下さい。わたしは純也さんがいてくれて、すごく心強いです。――じゃあ、そろそろ失礼します。おやすみなさい」

 純也さんも疲れているだろうし、あまり長居しても申し訳ない。愛美が原稿を持って、ベッドから腰を上げると……。

「あ、待って愛美ちゃん」

「……えっ?」

 純也さんに呼び止められた。そして彼は顔を赤真っ赤に染めて、愛美のコットンワンピースの裾をつかんでいる。

「どうしたの? 純也さん」

 困惑して、思わず敬語が飛んでしまった愛美に、純也は照れ隠しなのかボソッと問うた。本当に、聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で。

「あの。…………キスしていいかな?」

「……は?」

(だい)の大人が何を言い出すのかと思ったら、そんなこと?)

 愛美は面食らった。そんなの、本人に断りを入れる必要もないだろうに。

「その……、相手は未成年だし。一応、ひとこと断りを入れた方がいいかと思って」

 彼の弁明を聞いて、愛美はクスクス笑い出した。

(純也さんって、ホントに律儀な人だなぁ)

 三十歳にもなった男の人が、まるで中学生の男の子みたいに見えて、なんだか微笑ましかった。

 そして愛美は、笑顔のままで頷いた。

「はい……!」

 純也さんは愛美をもう一度ベッドに腰かけさせると、自分もその隣りに腰を下ろした。座ることにしたのは、自分と愛美との身長差を考えてのことのようだ。

 愛美はそっと目を閉じた。実際の経験はないものの、小説やTVドラマなどでキスシーンの時にはそうしているのを知っていたから。

 そして、純也さんは愛美の唇に優しくそっと自身の唇を重ねた。