こういう時は文字だけのメッセージよりも、電話で生の反応を聞いた方が分かりやすい。

「――そういえば純也さん、まだ起きてるのかな」

 愛美はスマホで時刻を確認してみた。九時――、まだ寝るのには早い時間だ。
 帰ったら小説を読ませてほしい、と純也さんは言っていた。もしかしたら、起きて待っていてくれているかもしれない。
 辛口の批評はできれば聞きたくないけれど、「彼に自分の原稿を読んでもらえるんだ」という嬉しい気持ちもまぁなくもない。ので。

「緊張するけど、約束だし。早い方がいいもんね」

 愛美は書き上がっている四作分の短編小説の原稿を持って、リラックスウェアのまま部屋を出た。そして、純也さんのいる隣りの部屋のドアをノックする。

「はい?」

「あ……、愛美です。今おジャマして大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。入っておいで」

 純也さんの許可が出たので、愛美は「おジャマしまーす」と言いながら室内へ。
 彼はノートパソコンを開いて、何やら険しい表情をしていたけれど、愛美の顔を見ると笑顔になってパソコンを閉じた。

「ゴメンなさい。お仕事中でした?」

「いや、今終わったところだよ。急ぎの件があったから、メールで指示を出してたんだ。――ところで、どうしたの?」

「小説を読んでもらおうと思って。約束だったから」

 愛美は大事に抱えていた原稿を、彼に見えるように(かか)げて見せた。原稿はひとつの作品ごとにダブルクリップで綴じてあって、一枚ずつ通し番号も振ってある。

「ああ、そうだったね。……ところでさ、女の子がこんな夜に、男の部屋に来るってことがどういう意味か分かってる? しかも、そんな()防備(ぼうび)な格好で」

「…………えっ?」

 純也さんは明らかに面白がっている。愛美が顔を真っ赤にして固まったので、途端に大笑いした。

「……なんてね、冗談だよ。からかってゴメン! そうやってあたふたする愛美ちゃんが可愛いから、つい」