「じゃあ……、お願いします!」

「うん。じゃ、上に行こうか」

 ――愛美は純也さんと一緒に、二階へ。彼の部屋は、なんと愛美の部屋のすぐお隣りだった!

「ここが純也さんのお部屋……」

 そこは、愛美が使わせてもらっている部屋とはだいぶ違う空間だった。
 シンプルなクローゼットとベッド、そして机と椅子があるだけ。照明器具も他の家具もシンプルで、本当に、眠るか仕事をするかだけの部屋という感じだ。

「うん。殺風景な部屋だろ? 特に、ここ数年はあまり来てなかったから、あんまり荷物は置いてないんだ」

 そう答えながら純也さんは荷物を下ろし、机の上にノートパソコンを置いて電源に繋いだ。

「それ……、お仕事用のパソコンですか? でも今休暇中なんじゃ……」

「そうなんだけどねぇ。どうしても急がなきゃいけない案件だけは、こっちにメールで送ってもらうことにしたんだ。社長って大変だよ」

「そうなんですか。じゃあ、あんまりわたしとは遊べないですね」

 愛美はガックリと肩を落とした。彼が休暇でここに来ているなら、一緒に過ごせる時間もたっぷりあると思ったのに……。
 
(でも、お仕事があるなら仕方ないか。ここに来てくれただけで、わたしは嬉しいもん)

「そんなことはないよ。仕事は夜になってから片付けるし。遊べる時は思いっきり遊ぶ。オンとオフの切り換えがきっちりできることも、一流の経営者の条件なんだから」

「えっ?」

「それに、愛美ちゃんは何か僕に相談したいことがあるって言ってたろ? それもちゃんと聞いてあげるよ」

「はい。……ちゃんと覚えて下さってたんですね」

 愛美は胸の中がじんわり温かくなるのを感じた。一ヶ月も前に、電話で話した内容なんてもう忘れられていると思っていたのだ。

「もちろんだよ。僕は、一度した約束は絶対に忘れないからね」

「ありがとうございます! ――でもあの件は、あの後もうほとんど解決しちゃってて……」