(保護者って……、〝田中さん〟だ!)
もしくはその秘書の久留島という人だろう。愛美が施設ではずっと六人部屋だったことを知っているから、せめて高校の寮生活では一人部屋を……と希望したに違いない。
「まあ、この先一年だけだから。学年が上がれば部屋替えもあるし」
「はあ……。ありがとうございます」
寮監の先生――名前は森口晴美というらしい――は、一人部屋になった愛美が淋しがっていると思ったらしいけれど。当の愛美本人は初めての一人部屋が嬉しくてたまらなかった。
「寮の玄関前にもう荷物は届いてるはずだから、行ってごらんなさい」
「はい」
森口寮監に言われた通りに〈双葉寮〉の玄関前に行ってみると、そこには他の新入生の女の子たちがみんな集まっている。
「あの、新入生の相川愛美ですけど。わたしの荷物、届いてますか?」
その中に一人混じっている、学校の職員とおぼしき中年男性に愛美は声をかけた。
「相川愛美さん……ですね。入学おめでとう。君の荷物は……と、あったあった! これに間違いないですか?」
彼が持ち上げたのは、ピンク色の小さめのスーツケース。ちゃんと荷札が貼ってある。
施設の部屋にはそんなにたくさんものが置けなかったため、愛美個人の荷物は少ない。だからこれ一つでこと足りたのだ。