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パン作りが終わってから、千藤家は愛美も含めて総動員で家の大掃除をして、翌日の何時ごろに純也さんが来ても大丈夫な状態になった。
そして翌日の午後二時ごろ。準備万端整った千藤家の前に、一台の車が停まった。国産のシルバーのSRV車。
その運転席から颯爽と降りてきたのは――。
「やあ、愛美ちゃん!」
「純也さん! いらっしゃい!」
笑顔で片手を挙げた大好きな男性を、玄関先で待っていた愛美も満面の笑みで迎えた。
純也さんは大きなスーツケースと、これまた重そうなボストンバッグを持っている。愛美の荷物ほどではないにしても、男性にしては荷物が多い気がするけれど……。
「愛美ちゃん、悪いんだけど車のトランク開けてもらっていいかな? 今ロックを外すから」
「えっ? ……ああ、はい」
愛美は戸惑いながらも、彼のお願いを聞いた。
(……もしかして、まだ荷物が?)
愛美がトランクを開けると、そこには信じられないものが積まれていた。
「これって……、バイク?」
「そうだよ。もう一台の僕の愛車。――愛美ちゃん、ありがとう。あと降ろすのは自分でやるから」
純也さんが車から降ろしたのは、ライトグリーンの中型のオフロードバイク。
愛美はバイクのことはまったく分からないけれど、純也さんの話では二五〇ccサイズらしい。
「これで、愛美ちゃんを後ろに乗せて山道とか走れたら楽しいだろうな……と思って積んできたんだ。……あ、ちなみに僕、大型二輪の免許持ってるから」
「へえ……、スゴいですね。なんかカッコいいです」
愛美はそう言いながら、頬を染めた。思わず、バイクの後部座席で彼の背中にしがみついている自分の姿を想像してしまったのだ。
「――あらあら! 純也坊っちゃん、いらっしゃいまし! まあまあ、こんなにご立派になられて……」
そこへ、多恵さんも飛んできた。家の中で家事でもしていたのか、エプロンを着けたままだ。



