彼はきっと、今日も仕事に追われているんだろう。社長は社長で、それなりに忙しいものだ。
 それでも、愛美からのメッセージにはちゃんと目を通してくれている。愛美はそれだけで嬉しかった。

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『拝啓、あしながおじさん。

 長野の千藤農園に着いて、十日が過ぎました。
 わたしは今年も農作業のお手伝いにお料理に学校の宿題に、それから公募用の原稿執筆にと忙しい夏休みを過ごしてます。そのおかげで、毎晩クタクタになってベッドに入っちゃうので、おじさまに手紙を書く時間もなくて。
 多恵さんは最近手作りパンにこってるらしくて、わたしも毎日、佳織さんと一緒にお手伝いしてます。生地をこねたり、多恵さんが買ったばかりのホームベーカリーでパンがふっくら焼けるのを、お茶を飲みながら待ったり。すごく楽しいです☆ そして、焼きたてのパンはすごく美味しいです! おじさまにも食べて頂きたい。きっと喜んで下さると思います。
 純也さんからは、まだ連絡がありません。わたしが送ったメッセージは見て下さったみたいなんですけど……。きっと忙しくて、返信する暇もないんだろうな。
 短編小説は、プロットのできた四作のうち三作はもう書き上げてあって、もう一作もあと少しで書き上がります。純也さんがこちらにいらっしゃったら、さっそく読んでもらうつもりです。それまでに原稿が上がるのか、純也さんが先に来られるのか。わたしはドキドキしてます。
 〝ドキドキ〟といえば……。わたし、この夏に純也さんに告白しようと思ってます。純也さんの方も、わたしのことを気に入って下さってるみたいだし。それよりも、この想いを抱えたままじゃわたし自身がおかしくなっちゃいそうで。だから結果なんて考えないで、自分の気持ちをそのまま彼に伝えます。
 おじさまも、わたしの恋を見守ってて下さいますよね? ではまた。

      七月三十日       愛美        』

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