自分の食器を片付け、スクールバッグを取り上げて食堂を出ていこうとした愛美は、ふと思い出した。

「うん、あたしはまだいいの。部活は二時からだから」

「そっか。今日も暑いから気をつけてね。じゃあお先に!」

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 ――愛美は来た道を引き返し、文芸部の部室へ。

「あ、愛美先輩! こんにちは」

 部室内には、すでに一年生の部員が一人来ていた。彼女は大きな机の前に座り、資料として置いてある小説を読んでいたけれど、愛美に気づくと立ち上がって頭をペコリと下げた。

「こんにちは。あらら、一番乗りはわたしじゃなかったかぁ。残念」

「でも、先輩だって二番目に早かったですよ。私はこの秋の部主催のコンテストに向けて、作品の構想を練ろうと思って」

「へえ、そうなんだ? わたしもなの。でもね、わたしは雑誌の文芸コンテストに応募するつもりなんだよ」

 部活動に熱心なのは、この後輩も同じらしい。もちろん張り合いたいわけではないので、愛美はあくまで控えめに彼女に言った。

「スゴいなぁ。先輩、公募目指してるんですか? 志が高くて羨ましいです」

「別に、そんなことないと思うけどな。小説家になるのが、わたしの小さい頃からの夢だったから」

「いえいえ、ますますスゴいですよ! もしかしたら、この部から現役でプロの作家が誕生するかもしれないってことですよね?」

「……こらこら。おだてても何も出ないよ、()()()ちゃん」

 和田(わだ)(はら)絵梨奈。――これが彼女の名前である。
 絵梨奈は愛美と同じ日に入部した女の子で、新入部員の中では愛美のことを一番慕ってくれている。

「じゃあ、絵梨奈ちゃんは自分のことに集中して。わたしも何か参考資料探そうかな……」

「はーい☆」

 絵梨奈がまた本に意識を戻したのを見届けて、愛美も本棚を物色し始めた。