「うん、そうなの。だから楽しみで仕方ないんだ♪ ――珠莉ちゃんはどうするの? 夏休み」

「どうせ、また海外でしょ? 今度はどこよ」

 少々やさぐれ気味に、さやかが言う。

「今年はグアムに。……でも私は、できれば日本に残りたいんだけど」

「どうして?」

 愛美が首を傾げると、珠莉はたちまち耳まで真っ赤になった。

「べっ……、別にいいでしょう!? 私だって、たまには日本でのんびりしたい――」

「あ~~~~~~~~っ! 分かった! もしかして、好きな人できた? ねっ、そうでしょ!?」

 珠莉の弁解を遮り、さやかが大声でまくし立てる。珠莉はその勢いに押され、「……ええ」と小声で頷いた。

「ああ、やっぱりそうなんだ」

「!? 愛美、何か知ってんの?」

 どうやら気づいていなかったのはさやかだけのようで、彼女は愛美に詰め寄った。

「うん、……多分。珠莉ちゃん、間違ってたらゴメンね。その好きな人って、もしかして治樹さん?」

「えっ、ウチのお兄ちゃん? まっさかぁ! そんなワケ……」

「……そうよ、愛美さん」

 その一言に、さやかが()(たけ)びを上げた。


「ええええええええ~~~~っ!?」


 愛美と珠莉は、思わずのけ反る。

「……もしかしてさやかちゃん、気づいてなかったの? わたしですら気づいてたのに」

「うん、全然。だって、まさかお兄ちゃんなんて……。ねえ珠莉、いつから?」

「五月に、原宿でお会いした時からよ。あの時からずっと気になっていて……」

「その時は〝恋〟って気づかなかったんだ? わたしもおんなじだったから分かるよ。初恋なんでしょ?」

 愛美も初恋だから、一年前は自分では恋に気づかなかったのだ。さやかに言われて初めて、「これが恋なんだ」と分かった。
 きっと、今の珠莉も同じなんだと思う。

「私もまさか、高校生になってから初めて恋をするなんて思ってもみませんでしたわ。今までにも男性と知り合う機会はありましたけど、治樹さんはその誰とも違ってましたの」