「知らなかったなぁ、珠莉がトマト苦手だったなんて。……で、何の話だっけ?」

 さやかが珠莉の背中を目で追いながら、しみじみと呟いた。
 三人の付き合いはもう一年以上になるけれど、まだまだ知らないことがたくさんあるもので。愛美も頷いた。

「夏休み、わたしは純也さんに告白するチャンスかもって話。――ちなみに制服なのは、午後から部活に出るから」

「あ、ナルホドね。だからカバン持ってきてるんだ。部屋に寄らずに直で来たワケね」

「うん。……あ、珠莉ちゃん戻ってきた」

 珠莉はタルタルソースがかかったチキンカツレツのお皿を手にして、嬉しそうなホクホク顔でテーブルに戻ってきた。

「お待たせしましたわ~~♪ こちらの方がカロリーは高そうですけど、まあいいでしよ」

 そう言いながら、コッテリしたタルタルソースがけのお肉を美味しそうに食べ始める。

「……よっぽど苦手なんだね、トマト」

「トマトのソースの方が、絶対サッパリして食べやすいだろうにね」

 愛美とさやかは、珠莉に聞こえないように囁きあった。

「――ところで、二人は今日、部活は?」

 愛美が訊ねる。さやかも珠莉も、すでに制服から着替えている。

「あたしも午後から部活だよ。でもまあ、部屋でスポーツウェアに着替えて直行できるから」

「茶道部は今日、お休みですの」

「そうなんだ」

 どうりで、珠莉がのんびりしているわけだ。愛美は納得した。

「でもさぁ、あたしはやっぱ夏休み返上で寮に居残り決定だよ。インハイの予選、順調に勝ち残ってるから。嬉しいんだけど、今年は家族でキャンプ行けない……」

 さやかは「はぁ~~」と大きなため息をついて、その場でうなだれた。

「しょうがないよ。部活の方が大事だもん。わたし、長野から応援するよ!」

「愛美さん、今年の夏も長野にいらっしゃるんですの? ……ああ。そういえば、純也叔父さまも行かれるんでしたわね」