「ゴメンね、遅くなっちゃって」

「いや、別にいいんだけどさ。どしたの? っていうかなんで制服?」

 愛美が謝りながらテーブルに着くと、さやかは怒っている様子もなく、彼女が遅れて来た理由を聞きたがった。
 愛美は食事をしながら、それを話し始める。

「ん、このチキンカツレツ美味しい! ――教室を出ようとしたら、上村先生に呼び止められて。奨学金申請の手続きが無事終わった、って。――あとね、スマホにおじさまの秘書さんから電話がかかってきたの」

「秘書さんから? どんな用件で?」

「書類がちゃんと着いたかどうかの確認と、今年の夏休みはどうしますか、って。わたしは今年も去年とおんなじように、長野の農園でお世話になるつもりだって答えたよ。今年は純也さんも来てくれるみたいだし」

 さやかも昼食に手を付け始めた。ゴハンよりも先に、愛美が絶賛したチキンカツレツに箸が伸びる。

「あ、ホントだ。コレ美味しい! ――そっか。もしかしたら、告白するチャンスかもしんないもんね。頑張れ、愛美」

「うん。ありがとね、さやかちゃん。……ところで、珠莉ちゃんはなんであんなに不機嫌なの?」

 愛美とさやかがおしゃべりに盛り上がる中、珠莉は不気味なくらい静かだ。

「さあ? っていうか珠莉、チキンあんまり食べてないじゃん。サラダも」

 見れば、珠莉はゴハンとスープばかりを口にしている。サラダも、トマトはのけてレタスとキュウリしか減っていない。

「珠莉ちゃん、食欲ないの?」

「そんなんじゃないの。……私、トマトが苦手なのよ」

「あれま。調理の人に言えば、タルタルソースに替えてもらえたのに。サラダのトマトは自分でのけられるにしてもさぁ」

「その手がありましたわね! 私、さっそくソースを替えてもらってきますわ!」

 途端に珠莉の顔色が明るくなり、彼女は踊るような足取りで調理室前のカウンターまで飛んで行った。