「……はあ。でも、他の部員の人たちもそうなんじゃないですか? みんな書くのは好きみたいだし」

「そんなことないわよ。ほんの趣味程度にやってる子がほとんどね。プロの作家を目指してる子の方が珍しいくらいよ」

 今年入ったばかりの一年生はまだどうか分からないけれど、二年生から上の部員はみんな文才がある。前年、部の主催で行われた短編小説コンテストでも、愛美以外の入選者はみんな文芸部の部員だった。

「文才があるからって、みんながみんなプロを目指してるわけじゃないの。お家の事情とか、色々あるんだから」

 例えば医者の家系に育ったら、自分も医学の道に進むことが決められているとか。経営者の一族だったら、後継者にふさわしい婚約者(〝フィアンセ〟と言った方が正しいかもしれないけれど)がすでに決められているとか。
 愛美は施設育ちだし、両親のこともよく覚えていないけれど、珠莉を見てきているから何となく分かる。

「そうですよね……。お嬢さまって大変なんだなぁ。――じゃあ先生、失礼します」

 愛美は上村先生に挨拶をして、スクールバッグを提げて寮までの道を急いだ。――要するに、お腹がグーグー鳴っていたのだ。

「あ~、お腹すいたぁ。今日のお昼って何だっけ」

 〈双葉寮〉の食堂のメニューは、朝昼夕とそれぞれ日替わりなのだ。好きなメニューが当たった日はハッピーだけれど、キライなものや苦手なメニューが出た日は一日ブルーでたまらなくなる。

 ……と、昼食メニューのことに意識を飛ばしながら早足で歩いていた愛美のスカートのポケットで、マナーモードにしていたスマホが振動した。

「……電話? 知らない番号だなぁ。誰からだろ?」

 ディスプレイに表示されているのは、まったく見覚えのない携帯の番号。愛美は首を傾げながら、通話ボタンを押した。

「もしもし? 相川ですけど、どちらさまですか?」