「じゃあ……、電話してみる」

 愛美は二人のいる前でスマホを出して、純也さんの番号をコールしてみた。〝善は急げ〟である。

『――はい』

「純也さん、愛美です。夜遅くにゴメンなさい。今、大丈夫ですか?」

『うーん、大丈夫……ではないかな。ゴメンね、今ちょっと出先で』

 純也さんは声をひそめているらしい。出先ということは、仕事関係の接待か何かだろうか?

「あっ、お仕事ですか? お忙しい時にゴメンなさい。後でかけ直した方がいいですよね?」

『いや、僕一人抜けたところで、何の支障もないから。――それよりどうしたの?』

「えっ? えーっと……」

 純也さんも忙しいようだし、あまり長話はできない。愛美は簡潔に要点だけを伝えることにした。

「……実は、純也さんに相談に乗って頂きたいことがあって。電話じゃ長くなりそうなんで、ホントは会ってお話ししたいんですけど。何とか時間作って頂けませんか?」

 電話の向こうで純也さんが「う~~ん」と唸り、十数秒が過ぎた。

『そうだなぁ……、しばらく仕事が立て込んでるからちょっと。でも、夏には休暇取って、多恵さんのところの農園に行けそうだから、その時でもいいかな? ちょっと先になるけど』

「はい、大丈夫です! 急ぎの相談じゃないから。――いつごろになりそうですか? 休暇」

 この夏は、純也さんと一緒に過ごせる! それだけで、愛美の胸は躍るようだった。

『まだハッキリとは分からないな。また僕から連絡するよ』

「分かりました。じゃあ、連絡待ってますね。失礼します」

 愛美は丁寧にそう言って、通話終了の赤いボタンをタップした。
 今すぐには相談に乗ってもらえなかったけれど、電話で純也さんの声を聞けて、しかも夏休みには彼と一緒に過ごせると分かっただけでも、愛美の気持ちは少し楽になった――。