――職員室を後にした愛美は、寮までの帰り道を歩きながら考え込んでいた。

(奨学金……ねぇ。そりゃあ、受けられたらわたしも助かるけど……。おじさまは気を悪くしないのかな……?)

 彼はよかれと思って、厚意で愛美の援助に名乗りを上げたのだ。他に手助けしてくれる人がいないのなら、自分が――と。
 それに水を差されるようなことをされて、「もう援助は打ち切る」と言われてしまったら……?

(もちろん、奨学金でもわたしのお小遣いの分までは出ないから、それはこの先もありがたく受け取るつもりでいるけど)

 今までのようにはいかなくても、お小遣いの分だけでも愛美が甘えてくれたなら、〝あしながおじさん〟も自分のメンツが保てるんだろうか?

「こんなこと、純也さんに相談してもなぁ……」

 彼とは一ヶ月前に連絡先を交換してから、頻繁に電話やメッセージのやり取りを続けている。「困ったときには何でも相談して」とも言ってくれた。
 でも、こればっかりは他人の彼が口出ししていい問題ではない気がする。

「っていっても、もう手続きしちゃってるし。今更『やっぱりやめます』ってワケにもいかないし」

 本校舎から〈双葉寮〉まで帰るには、途中でグラウンドの横を通る。グラウンドでは、さやかが所属する陸上部が練習の真っ最中だった。

「――わあ、さやかちゃん速~い!」

 百メートル走のタイムを測っていた彼女は、十二秒台を叩き出していた。

「暑い中、頑張ってるなぁ」

 本人に聞いた話では、五月の大会でも準優勝したとか。この分だと夏のインターハイへの出場も確実で、今年は夏休み返上かもしれない、とか何とか。

「さやかちゃ~ん! お疲れさま~!」

 愛美は親友の練習のジャマにならないように、その場から大声で声援を送った。すると、タオルで汗を拭きながらさやかが駆け寄ってくる。

「愛美じゃん! さっきの走り、見てくれた?」