――愛美たちの原宿散策から一ヶ月が過ぎ、横浜は今年も梅雨入りした。

「――愛美、あたしこれから部活だから。お先に」

 終礼後、スポーツバッグを提げたさやかが愛美に言った。

「うん。暑いから熱中症に気をつけてね」

 梅雨入りしたものの、今年はあまり雨が降らない。今日も朝からよく晴れていて蒸し暑い。屋外で練習する陸上部員のさやかには、この暑さはつらいかもしれない。

「あら、さやかさんもこれから部活? 私もですの」

「アンタはいいよねー。冷房の効いた部室で活動できるんだもん」

「そうでもないですわよ? お茶を()てるときのお湯は熱いし、着物も着なくちゃならないから」 

 珠莉は茶道部員である。さすがに活動のある日、毎回和装というわけではないけれど、定期的に()(だて)を開催したりするので、大変は大変なのだ。

「へえー、そういうモンなんだぁ。どこの部も、ラクできるワケじゃないんだね―。――愛美も今日は部活?」

「ううん。文芸部(ウチ)は基本的に自由参加だから、わたしは今日は参加しないよ」

「え~~~~、いいなぁ。……じゃあ行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」

 親友二人を見送り、自分も教室を出ようと愛美が席を立つと――。

「相川さん、ちょっといいかしら?」

 クラス担任の女性教師・上村(うえむら)早苗(さなえ)先生に呼び止められた。
 彼女は四十代の初めくらいで、国語を担当している。また、愛美が所属している文芸部の顧問でもあるのだ。

「はい。何ですか?」

「あなた、今日は部活に参加しないのよね? じゃあこの後、ちょっと私に付き合ってもらってもいい? 大事な話があって」

「はあ、大事なお話……ですか? ――はい、分かりました」

(大事な話って何だろう? まさか、退学になっちゃうとか!?)

 愛美は頷いたものの、内心では首を傾げ、イヤな予感に頭を振った。
 
(そんなワケないない! わたし、退学になるようなこと、何ひとつしてないもん!)