――それから半年が過ぎ、季節は春。愛美が〈わかば園〉を巣立つ日がやってきた。
「――愛美ちゃん、忘れ物はない?」
「はい、大丈夫です」
大きなスポーツバッグ一つを下げて旅立っていく愛美に、聡美園長が訊ねた。
「大きな荷物は先に寮の方に送っておいたから。何も心配しないで行ってらっしゃい」
「はい……」
十年以上育ててもらった家。旅立つのが名残惜しくて、愛美はなかなか一歩踏み出せずにいる。
「愛美ちゃん、もうタクシーが来るから出ないと。ね?」
園長だって、早く彼女を追いだしたいわけではないので、そっと背中を押すように彼女を促した。
「はい。……リョウちゃん」
愛美は園長と一緒に見送りに来ている涼介に声をかけた。
「ん? なに、愛美姉ちゃん?」
「これからは、リョウちゃんが一番お兄ちゃんなんだから。みんなのことお願いね。先生たちのこと助けてあげるんだよ?」
この役目も、愛美から涼介にバトンタッチだ。
「うん、分かってるよ。任せとけって」
「ありがとね。――園長先生、今日までお世話になりました!」
愛美は目を潤ませながら、それでも元気にお礼を言った。
「――愛美ちゃん、忘れ物はない?」
「はい、大丈夫です」
大きなスポーツバッグ一つを下げて旅立っていく愛美に、聡美園長が訊ねた。
「大きな荷物は先に寮の方に送っておいたから。何も心配しないで行ってらっしゃい」
「はい……」
十年以上育ててもらった家。旅立つのが名残惜しくて、愛美はなかなか一歩踏み出せずにいる。
「愛美ちゃん、もうタクシーが来るから出ないと。ね?」
園長だって、早く彼女を追いだしたいわけではないので、そっと背中を押すように彼女を促した。
「はい。……リョウちゃん」
愛美は園長と一緒に見送りに来ている涼介に声をかけた。
「ん? なに、愛美姉ちゃん?」
「これからは、リョウちゃんが一番お兄ちゃんなんだから。みんなのことお願いね。先生たちのこと助けてあげるんだよ?」
この役目も、愛美から涼介にバトンタッチだ。
「うん、分かってるよ。任せとけって」
「ありがとね。――園長先生、今日までお世話になりました!」
愛美は目を潤ませながら、それでも元気にお礼を言った。