「え…………。わたしが? 冗談でしょ?」

 さっきまでの動揺はどこへやら、今度はサラッとキザなことを言ってのける純也さん。愛美は顔から火を噴きそうになるよりも、困惑した。

(やっぱりこの人、よく分かんないや)

「いや、冗談なんかじゃないよ。僕は冗談でこんなこと言わない」

「あー…………、ハイ」

 どうやら本心から出た言葉らしいと分かって、愛美は嬉しいやらむず痒いやらで、俯いてしまう。

(コレって喜んでいいんだよね……?)

 生まれてこのかた、男性からこんなことを言われたことがあまりないので(治樹さんにも言われたけれど、彼はチャラいので別として)、愛美はこれをどう捉えていいのか分からない。

「……純也さんって、女性不信なんですよね? 珠莉ちゃんから聞いたことあるんですけど」

「珠莉が? ……うん、まあ。〝不信〟とまではいかないけど、あんまり信用してはいないかな」

「どうして? ――あ、答えたくなかったらいいです。ゴメンなさい」

 あまり楽しい話題ではないし、純也さんの事情にあまり踏み込んではいけない。だから、本人が答えたくないなら愛美は知る必要もなかったのだけれど。

「う~~ん、どう言ったらいいかな……。昔から、僕は打算で近づいてくる女性としか付き合ったことがないんだ。『僕と結婚したら、辺唐院一族の一員になれる』って計算があったり、財産が目当てだったり。言ってる意味分かる?」

「なんとなくは。つまり、本気で好きになってもらったことがないってことですよね」

「うん、そういうこと。大人になってからは特にひどい」

(純也さん、かわいそう……)

 愛美は思わず、彼に同情した。そんな恋愛ばかり経験してきたら、女性と知り合うたびに「この女もどうせ打算なんだろう」と穿(うが)った見方しかできなくなるのも当然だ。それくらいのこと、恋愛未経験者の愛美にも分かる。