「うーんと、僕の言う〝人並みの生活〟っていうのはね、世間一般の常識からズレない生活ってこと。コンビニで買いものしたり、自炊したり、公共の交通機関を利用したり。車の運転もそう。――金持ちだからって、世間知らずだと思われたくないんだ。特にウチの一族は、一般の常識からはズレた考え持ってる連中の集まりだからね」

「……そこまでサラッとディスっちゃうんですね。自分のお家のこと」

 愛美も心配になるくらい、純也さんは辛辣(しんらつ)だった。自分があの一族に生まれ育ったことがイヤでイヤで仕方がないんだろう。

「だって、事実だからさ。……あっ、ココだけの話だからね? 珠莉には言わないでほしいんだけど」

「分かってます。わたし、口は堅いから大丈夫です」

「よかった」

 彼も一応は、言ってしまったことを少なからず()やんでいるらしい。愛美が「口が堅い」と聞いて、ホッとしたようだ。

(口が堅いっていえば、珠莉ちゃんもだ)

 彼女は絶対に、愛美に対して何か隠していることがある。でも、いつまで経っても打ち明けてはくれないのだ。――ことの発端(ほったん)は、約一ヶ月前に純也さんが寮を訪れたあの日。

「――ところで純也さん。先月寮に遊びに来られた時、帰り際に珠莉ちゃんと二人で何話してたんですか?」

「ん?」

 とぼけようとしている純也さんに、愛美は畳みかける。

「純也さん、わたしに何か隠してますよね?」

「……ブッ!」

 ズバリ問いただすと、純也さんは動揺したのか飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。

「あ、図星だ」

「ゴホッ、ゴホッ……。いや、違うんだ。……確かに、大人になったら色々と秘密は増える。愛美ちゃんに隠してることも、あるといえばある……かな」

 むせてしまった純也さんは必死に咳を止めると、それでも動揺を隠そうと弁解する。

「何ですか? 隠してることって」

「愛美ちゃんのこと、可愛いって思ってること……とか」