愛美はふと思い出す。――それにしたって、何もこんなところで純也さんと鉢合わせしなくてもいいじゃない、と思った。

(……まあ、偶然なんだろうけど)

「まあ! さやかさんのお兄さまでいらっしゃいますの? 私はさやかさんと愛美さんの友人で、辺唐院珠莉と申します」 

「へえ、君が珠莉ちゃんかぁ。さやかから話は聞いてるよ。……で? そのオッサンは誰?」

「あたしたちは今日、この珠莉の叔父さんに招待されて、東京に遊びに来たの。これからミュージカル観に行って、ショッピングするんだ」

 さやかはそう言いながら、右手で純也さんを差した。

「……どうも。珠莉の叔父の、辺唐院純也です」

 純也さんはなぜか、ブスッとしながら治樹さんに自己紹介した。〝オッサン〟呼ばわりされたことにカチンときているらしい。

「へえ……、珠莉ちゃんの叔父さん? 歳いくつっすか?」

「来月で三十だよ。つうか誰がオッサンだ」

(純也さん、それ言っちゃったら大人げないです……)

 ムキになって治樹さんに食ってかかる純也さんに、愛美は心の中でこっそりツッコんだ。

 そして、治樹さんは治樹さんで、愛美がチラチラ純也さんを見ていてピンときたらしい。愛美の好きな人が、一体誰なのか。

(お願いだから治樹さん、ここで言わないで!)

 愛美の想いなどお構いなしに、治樹さんと純也さんはしばし(にら)みあう。けれど、身長の高さと目力(めぢから)の強さに圧倒されてか、すぐに治樹さんの方が睨むのを諦めた。

「……すんません」

「いや、こっちこそ大人げなかったね。すまない」

 とりあえず、火花バチバチの事態はすぐに収まり、さやかがまた兄に同じ質問を繰り返す。

「だからさぁ、お兄ちゃんはなんでここにいんのよ? 住んでんのこの辺じゃなかったよね?」

「なんで、って。服買いに来たんだよ。この辺の古着屋ってさ、けっこういいのが揃ってんだ」