「――そういえば、手紙はどなた宛てに出したらいいんでしょうか? お名前、教えて頂けないんですよね?」
多分、何か偽名を指定されているはずだと愛美は思った。
あのお話の中では「ジョン・スミス」だけれど、あの人は一体どんな偽名を考えたんだろう……?
「一応、仮のお名前は『田中太郎』さんだそうよ。いかにも偽名って感じのお名前でしょう?」
「はい」
園長先生が笑いながらそう言うので、愛美も思わずつられて笑ってしまう。
「でも、それじゃ郵便が届かないから。宛て名は個人秘書の久留島栄吉さんにして出すように、って」
「分かりました。秘書さんからその〝田中さん〟の手に渡るってことですね? そうします」
個人秘書がいるなんて……! どれだけすごい人なんだろう?
「残念ながら、お返事は頂けないそうなの。自分からの手紙が、あなたのプレッシャーになるんじゃないかと心配されてるみたいでね。だから何か困ったことがあった時には、同じように久留島さん宛てにお手紙を出して相談するように、ともおっしゃってたわ」
「はい」
そして多分、秘書の名前で返事が来るはずだ。それも、今の時代だからパソコン書きの。
「愛美ちゃん。私も田中さんも、あなたの夢を心から応援してるのよ。だからあなたは何も心配しないで、安心して高校生活を楽しみなさい。あなた自身が信じる道を歩みなさい。あなたの人生なんだから」
園長先生はまっすぐに愛美を見つめ、真剣な、それでいて愛情に満ちた声でそう言った。