****
――楽しいひと時はあっという間に過ぎ、ケーキも紅茶もすっかりなくなった頃。
「愛美ちゃん、さやかちゃん、珠莉。僕はそろそろ失礼するよ」
腕時計にチラッと目を遣った純也さんが、席を立った。
「えっ? ――わ、もうこんな時間!?」
愛美も自分のスマホで時間を確かめると、もう夕方の五時前だ。
純也さんが訪ねてきたのが三時半ごろだったので、かれこれ一時間半もこの部屋にいたことになる。
「じゃあ、三人で下までお見送りします」
愛美たちは制服のまま、純也さんと一緒に寮の玄関まで降りていった。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそ、色々話を聞いて頂いてありがとうございました。お気をつけて」
「うん。――愛美ちゃん、小説頑張ってね。いつか僕にも読ませてほしいな」
「あ……、はいっ!」
愛美は満面の笑みで頷いた。
(やっぱりわたし、この人が好き。大好き!)
会うたびに、声を聞くたびに、愛美の中で彼への想いはどんどん大きくなっていく。こんな気持ちは生まれて初めてだった。
彼が十三歳も年下の、それもまだ高校生の自分をどう思っているのかはまだ分からない。でも、これが恋なんだと初めて知った一年前とは違って、もう不安はない。不思議だけれど、自分に自信がついた気がする。
――が、そんな愛美とはうらはらに、珠莉はなぜか険しい表情をしていた。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「ちょっとお待ち下さい、叔父さま! ――お話があります。ちょっと来て頂けます?」
「…………え? 珠莉? 話って――」
「いいから来て下さい!」
困惑する叔父の腕を、珠莉は有無を言わせない態度でグイッとつかんだ。
「どうしたんだろ? 珠莉ちゃん、なんか怒ってる?」
「……だね。あたしたち、片付けもあるし先に戻ってよっか。――珠莉ー! 先に部屋に行ってるからー!」
さやかは珠莉の返事を待たずに、愛美を促してエレベーターに向かう。愛美は珠莉と純也さんとの話の内容が気になって仕方がなかった。