もちろん、小説が書けることもそうだ。〝あしながおじさん〟が援助を申し出てくれなかったら、愛美は夢を諦めなければならないところだった。
 高校へも行かずに小説家になることは、不可能ではないけれどとても高いハードルを越える必要があるから。

「でも、ウチの親族は僕の考えを理解してくれないんだ。『そんなこと、バカらしい』って言われるんだよ。僕に言わせれば、他の連中の方がおかしいんだけどね」

「はあ……。きっと感覚がマヒしてるんでしょうね。お金があるのが当然みたいに。――あっ、珠莉ちゃんは違うよね?」

 愛美は慌ててフォローした。珠莉も最初はそういう子だと思っていたけれど、今は違う。本当はただの淋しがりやで、思いやりもあって、ただ素直じゃないだけだと分かっているから。

「お気遣いどうも、愛美さん。私も前はそうでしたわ。でもね、あなたやさやかさんとお友達になって、ちょっと価値観が変わったの」

「確かに、珠莉は昔会った時より人間が丸くなったな。こんないい友達に恵まれて、君は幸せものだと思うよ」

 純也さんは、姪の珠莉にそんな言葉をかける。さすがは親戚だけあって、彼女の幼い頃のことをよく知っているのだ。

「そういえば純也さん、一年前にお話した時は珠莉ちゃんのこと『苦手だ』っておっしゃってましたっけ」

「愛美ちゃん……。そのことはもう忘れてくれ」

 純也さんが、「余計なこと言うな」とばかりに愛美に懇願した。さすがに本人の目の前では言いたくなかったらしい。

「えっ、そうだったんですの?」

 と、珠莉が今更ながら驚けば。

「アンタさぁ、叔父さん困らせるようなこと、さんざんやってたんじゃないの? そりゃ迷惑がられるわ」

 と、さやかが彼女を茶化す。これは珠莉の図星だったらしく、珠莉はぐうの音も出なかった。