愛美も同意した。これなら胸やけの心配もなさそうだ。
「二切れも食べられるのか」と心配していた珠莉も、一切れはあっという間に平らげ、早くも二切れめにかかっている。

「――ところで愛美ちゃん。千藤農園はどうだった?」

 ケーキを一切れ残し、紅茶を飲んでホッとひと息ついた純也さんが、愛美に訊ねた。
 話すのはもう八ヶ月ぶり、しかも前回は電話だったので、面と向かっては約一年ぶりになる。

「はい、すごくいいところでした。空気はおいしいし、星空もキレイだったし、みなさんいい人でしたし。色々と勉強になることも多くて」

「そっかそっか。楽しかったみたいで何よりだよ」

 愛美の答えに、純也さんは満足そうに笑った。

「ホタルは見に行った?」

「いえ。いるらしいってことは、天野さんから聞いたんですけど。わたしは遠慮したんです。一人で行ってもつまんないし、もし見に行くなら好きな人と一緒がいいな……って」

 その〝好きな人〟を目の前にして、とんでもないことを口走ってしまったと気づいた愛美は、最後の方はモゴモゴと口ごもってしまった。

「好きな人……いるんだ?」

「ぅえっ? ええ、まあ……」

 正面切って訊ねられ、愛美は思わず挙動(きょどう)不審(ふしん)になってしまう。

(う~~~~っ! 穴があったら入りたいよぉ……)

 これ以上勘繰られても困るので、愛美はコホンと小さく咳ばらいをし、気を取り直して話題を農園のことに戻した。 

「――純也さん、子供の頃にあの場所で過ごしてたんですよね? 喘息の療養をしてたって。多恵さんが教えて下さいました」

「多恵さんが? 僕について、他には何か言ってなかった?」

「純也さんのこと、ベタ褒めしてらっしゃいましたよ。すごく正義感が強くて、素直で無邪気な子だったって」

 多恵さんがベタ褒めしていた純也さんのいいところは、大人になっても変わっていないと愛美は思う。彼は今でも、純粋で優しくてまっすぐな人だから。